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【パスナビ】字幕翻訳という仕事

「日本で最も有名な翻訳者」といえば、皆さんは誰を思い浮かべますか?

おそらく映画字幕翻訳者の戸田奈津子さんを
思い浮かべる方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
たいていの映画には、「字幕 戸田奈津子」のクレジットが流れますよね。

1979年に映画『地獄の黙示録』の翻訳で有名になって以来、
年間約50本のペースで映画の翻訳をこなしているそうです。
けれども、その輝かしい実績の一方で、
日本で最も多くの批判を受けている翻訳者の一人としても知られています。
有名だからこそ、批判の対象にもなるわけですが。
その一つ一つを見てみますと、大体のところ、
「実際の台詞では そう言っていない」というものです。
いわゆる「誤訳」だという批判です。

戸田さんの翻訳は「意訳」と呼ばれています。
つまり、英語から日本語に直訳するのではなく、
ストーリーや台詞の主旨をふまえて、
一瞬で観客が理解できるように、言葉を変えてあるのです。
人が一瞬で読める文字は多くて4文字、
しかも、1行約10文字の字幕が3行以上になると、
観客はしっかり字幕を読まなくなるそうです。

さらに字幕には、さまざまな制約があります。
俳優の話すスピードも考慮しなければいけません。
たとえ俳優が機関銃のように早口で話している場合でも、
話の筋が通じるように言葉を選んで字幕を出していく必要があります。
英語と日本語のニュアンスや文化の違いも考えなくてはいけません。
たとえば、ネイティヴがよく使うこういう表現。
“Now, you know what I mean, don't you ? ”
これを、そのまましっかり訳そうとすると、
「今ならあなたは私が意味していることを理解しているでしょう?」
…みたいなグダグダした字幕になってしまいます。
これを俳優の口調に合わせて一瞬で読ませるためには、
「もう分かったでしょ?」
…と
るわけです。

そうは言っても、「そんな理由では済まない」というのが批判する立場の意見です。
戸田さんへの激しい批判は、後を絶ちません。
翻訳した映画に熱狂的なファンがいればいるほど、
「作品を変えてしまった!」という猛烈な抗議行動を受けます。
ある専門家からは「用語が違う!」と言われ、
一部の宗教関係者からは「そんな表現は神への冒涜だ!」と言われ、
翻訳者仲間からは「自分が翻訳していたら、もっとうまく訳していたのに」と言われ、
やがては「常識がない!」「訳に品格がない!」などと、
戸田さんへの人格批判にまで発展していることまで度々あります。

もし、私が戸田さんの立場だったら、きっと精神的にまいってしまうと思います。
追い詰められて、翻訳の仕事をやめてしまおうと考えるかもしれません。
でも、戸田さんは字幕翻訳の仕事をやめようと思ったことはないそうです。
「映画が好きだから、英語も好き」と、笑顔で話しています。

あるメディアのインタビューで「誤訳」について問われたとき、
戸田さんは事もなげに、こう回答していました。
「それぞれ意見はあるでしょうけど、
 
すべての意見が合うことはなかなかないですからね」
そのときの批判の内容は忘れてしまいましたが、
この大人の対応には素直に「カッコいい!」と感じたことを憶えています。

人それぞれに考え方の違いがあることは当然のことで、
何をやっても、どんなに頑張ったとしても、批判する人はいるでしょう。
それをいちいち怒ったり嘆いたりしても、意味がないのかもしれません。
世のなかの全員の人から賞賛されるなんて、できはしないのです。
自分なりに精一杯頑張って、自分自身が納得できたかどうか、
大切なのはそれだけなのかもしれない、と思います。

戸田さんは、どんなに「難しい」と感じた翻訳の仕事でも
一度、引き受けたら、完成まで「必ずベストを尽くす」そうです。
「一生懸命やっていれば、誰かが見てくれているものだから」
という戸田さんの言葉は、まるで映画の字幕のように
その行間に深い哲学が刻まれているようにも感じました。


『大学受験パスナビ』の姉妹サイトの『高校受験パスナビ』では、
戸田奈津子さんのインタビュー記事を掲載しています。
ぜひご覧ください。
 ▼ ▼ ▼

戸田奈津子さんスペシャルインタビュー


戸田奈津子さん の プロフィール

映画字幕翻訳者。東京都出身。お茶の水女子大学付属高校を経て、
津田塾大学英文科卒業。第一回淀川長治賞受賞者。
神田外語大学・神田外語学院のアカデミックアドバイザー。






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