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【パスナビ】 1人の心に届くまで


いきなり私事で恐縮だが、パスナビ編集部を離れることになった私には、
このスタッフブログでぜひ伝えておきたいエピソードがある。
知り合いのNさんから聞いた、50年以上前の大学受験の話である。

当時、Nさんは苦学生だったそうだ。
経済的な事情から、「どうしても現役で大学に合格したい」 と考えていた。
T大学を目指していたNさんは、ある壁にぶちあたったという。
「入試情報や過去問題が思うように手に入らない」 という現実だった。

今でこそ、受験情報誌の『螢雪時代』も簡単に手に入るし、
過去問題も世のなかに溢れているが、当時はそうではなかったそうだ。
買うタイミングを逃してしまうと、受験情報は二度と手に入らなかった。
もちろん、インターネットや携帯もない時代なので、
「パスナビで調べる」 なんてこともできなかった。

Nさんは悩んだ挙句、わざわざ東京の旺文社本社にまで足を運んだという。
「直接、旺文社へ行けば、何でも手に入るかもしれない…」
と思ったそうだ。
無茶な話だが、おそらくそこまで精神的に追い詰められていたのだろう。

 注:現在の旺文社は、注文センター等も別の場所にありますので、
    直接、本社にいらっしゃっても商品をお渡しすることはできません。


Nさんの記憶によると、当時の旺文社本社はビルではなく、
「普通の民家を改造したような建物」だったという。

Nさんに応対したのは、頼りなさそうな若い社員だったそうだ。
Nさんが事情を話すと、その社員は困った顔をした。
ほしかった本はすでに売れてしまって、会社には一冊もないという。
「では、せめてその情報が載っている原稿を見せてほしい」 とせがんだ。
すると、その若い社員にきっぱりと断られた。
無理な相談だった。

Nさんは、無鉄砲な自分の行動を後悔して、トボトボと帰ろうとした。
すると、そのNさんの背中に、先ほどの若い社員が声をかけた。

「あの…原稿は外に持ち出してはいけないことになっています。だから…」

Nさんは最初、その社員の意図がさっぱり分からなかった。
すると、その社員はNさんを再び社内に招き入れて机と椅子を用意すると、
机いっぱいに Nさんが探していた大学情報の原稿を広げた。
Nさんは時間をかけて、しっかりと目に焼きつけて記憶した。

 注:現在は社内であっても一般の方が原稿等を確認することはできません。

結局、その社員の名前も分からなかった。
その後、その「名もなき若い社員」に社内でどんな厳しい沙汰が下ったのか、
Nさんには知る由もない。
しかし、Nさんはその社員のことを今でも心から感謝しているという。

ちなみに、Nさんは現役でT大学を合格し、その後、教師になった。
教師時代は、生徒達によく『螢雪時代』を読ませていたという。

その『螢雪時代』は、まもなく80周年を迎える。
不況といわれる時代に、この雑誌には不思議な現象がある。
昨年よりも、さらに多くの高等学校などに設置されていることが分かった。
これほど長い歴史を経て、なお需要を増やしている雑誌は他に類が無い。

『大学受験パスナビ』も、来年で10周年を迎える。
その契機に、ますます機能やコンテンツが大きく進化していく予定だ。

しかし、どんなにテクノロジーが進化していくとしても
受験を機械的に処理するだけのwebサイトになってはいけない。

これからも1人の受験生の心まで大切にするパスナビでありたい。
その昔、旺文社にいたという「名もなき若い社員」のように。





(いけまる)

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